わたしの十字架・・・①
夕暮れの墓地でスヨンは手を合わせていた。
「お母さん、私達また会えるよね、オッパ、私達また会えるでしょ!」
二人は何も答えてはくれない。当然かもしれない。二人仲良く逝ってしまったから。
「明日出発するわ。今度いつ此処に来れるか分らない、もう戻らないかも・・・。ごめんなさい」
スヨンは白い辛夷の花を、二つ並んだ墓標に供え背を向けた。桜はまだ蕾の三月の初めだった。
スヨンは墓地の坂道を下りながら思い出していた。もう三ヶ月も経っているのに、あの時の恐怖で体が震えだしそうだった。
あの日は風が冷たかった。朝から曇っていて、空は今にも雪になりそうで、スヨンは憂鬱な日々が続いているのに、余計に気分が落ち込んでいた。
高校三年生のスヨンの悩みは進路のことだった。本校の卒業生は大半が進学するか、そうでなければ浪人する。スヨンの通う高校は有名な進学校だったから。
家の経済力では大学生の兄一人通わすのでやっとで、スヨンまでは無理なことだった。それに父が死んでからは、母は大好きな兄に係りっきりで、スヨンのことなど気にも留めない。もしかしたら、母はスヨンの卒業のことも忘れているのかもしれない、と思っていた。
スヨンは、いつものコンビ二でおにぎりとジュースを買って、帰宅すると家の鍵は開いていた。そっと入り、静かにドアを閉めた。
キッチンを覗くとテーブルの上に母のバックとスーパーの袋が見えたが、母の姿は無かった。
ガスレンジには油の入った天ぷら鍋がのっていたが火は点いていなかった。油の臭いに吐き気がする。揚げ物は生理的にスヨンは好きになれない。
奥の自分の部屋に向かった時、お風呂場に人の声を聞いた。母の笑う声がして、余計に苛立たせる。
「ママ! 何してるの?」 心の中で叫んでいた。
・・・つづく
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